天文館研究(2006年1−2)
陳丹の力作《加賀谷穣のデジタル宇宙芸術全解説》の発表を祝して
善義:宇宙調和の義 李元
20世紀の80年代、私は日本の科学雑誌《星の手帖》を通して、初めて加賀谷穣の天文芸術作品に出会った。それは星座や星図を中心に描いたもので、当時の私は、このようにすばらしい天文美術作品があるということに、たいへん驚いたものだ。1998年私ははじめて日本を訪れ、日本で著名な、また世界的にも著名な天文作家でありカメラマンでもある星座の専門家藤井旭さんに連れられ、東京天文館を参観した。その時に天文図書売り場で加賀谷穣の《Fantastic Starry Night》という大判の星図を見て、まったくの予想外のことに大変喜び、何枚か買って帰ろうとした。しかし、藤井旭さんが「焦らないで。少し待って」と言って、すぐに電話を取り出して連絡をつけると、これから一緒に星の手帖社に行きましょうと言った。ほどなく、とあるビルの3階にある2間の普通の仕事場で、《星の手帖》の編集長である阿部さんと年若い加賀谷穣に会うことになった。私たちは、親しくじかに話を進め、私が加賀谷穣の作品をほめると、彼は作品を広げて見せながら、紹介をしてくれた。また、大判の星図や月面図、太陽系図などを私にプレゼントしてくれた。そして、阿部さんは私たちをあるフランス料理のレストランに招待してくれた。この時の加賀谷穣との出会いは、私にとても深い印象を与えることとなった。あのような粗末な仕事場で、このように世界レベルの天文美術作品を生み出すことがかなうには、彼の勤勉な努力とセンス以外にその答えが見つけられなかった。これより私はますます彼の作品を愛するようになり、最高の尊敬の念をもつようになった。また、彼の成果と藤井旭さんの指導と協力は一体のものだと理解した。
2001年、2回目の訪日の際、私は大阪科学館と東京の書店で加賀谷穣の画集を買うことができた。しかし、ここ数年は別の仕事が忙しく、彼の作品をじっくりと研究することができなかったばかりでなく、連絡も少なくなってしまっていた。今年の2月、陳丹同志から連絡が来た。私は日本の友人鈴木雅晴氏に加賀谷穣の2冊の最新のデジタル天文美術作品集を買ってくれるよう依頼していたのだが、鈴木さんはわざわざ加賀谷穣のもとを訪れて、「李元先生へ KAGAYA」という直筆のサインまでもらってくれたというのだ。鈴木さんは北京に来た際に画集を持って来てくれ、彼が言うには、加賀谷穣の本はとても売れているが、それよりもっと大変なのは直筆のサインをもらうことで、このサインは本よりもさらに価値があるということだった。このとき一緒にKAGAYAスタジオのパンフレットをもらったが、印刷はたいへんきれいで、内容も非常に豊富だった。そこには彼の大部分の作品が何百点と縮図として載せられおり、このように美しい天文美術資料を目の前にし、私と陳丹は感嘆と賛美がつきなかった。陳丹同志は中国の刊行物の中で、一番最初に加賀谷穣のデジタル天文美術作品を紹介した。私は陳丹にこれらの資料を十分に研究し、評論や紹介を著して、みなの学習資料としていくことを期待した。
《加賀谷穣のデジタル宇宙芸術全解説》は、まさに陳丹同志が私たちに贈ってくれたたいへん価値のある研究成果だ。国内外をとおし、私の知る限りでは、このような評論作品はまだ少ない。いわゆる「全解説」として、じつに加賀谷穣のデジタル美術作品のすべてと全面にわたる批評紹介をしており、そこに付されている一部のカラー作品からも原作品がどれほど美しいかをうかがい知ることができる。
全解説中の2つの主要部分も、限りなく見る人の心をゆさぶる彼の2冊の宇宙美術作品《STARRY TALES》と《CELESTIAL EXPLORLING》からなっている。この2冊の本の華やかで調和のとれた画と内容は、付図からも十分に味わうことができる。陳丹同志の全解説については、読者のみなさんがご自分で観賞すればいいことなので、もうこれ以上私が語る必要はないだろう。この他、加賀谷穣は、天文館などのデジタル上映館用として《銀河鉄道の夜》というデジタル上映番組を作っている。北京天文館の朱進館長が言うには、彼はつい先日、日本でこの番組を見ることができ、かつ中国にもってくる準備をしているという。私たちは銀河の鉄道の旅への出発を目にする日が来ることを期待しよう。
全解説には、もう一つ重要なテーマがある。それは、加賀谷穣の星図と星座の絵を含む天体宇宙画(天空美術)というものが、天文学や特に天文教学と天文普及とって重要な役割を担っているということだ。私は古今東西の星座や星図および関連する科学美術作品において、加賀谷穣が新しく拓いた作品の境地は、時代とともに進化するだけでなく、永遠にその名声を留め、伝えられて行くものだと確信している。
陳丹同志は天文、芸術、人文などの多方面から加賀谷穣の宇宙芸術の品格と業績を評価紹介することによって、我が国の天文普及や天文館の仕事に対して、たいへんよい影響と促進を与えることに成功した。加賀谷穣の勤勉で新しいものを生み出す精神は、私たちもよく知って学ぶべきものだ。